中古住宅の価格査定
中古建物の価格はどのようにして決まっていくのでしょう。
必ずこうして計算しなければならないとルールはありませんが、不動産会社向けに公益財団法人不動産流通推進センターが「価格算定マニュアル」を発表していますので、参考となります。
そのマニュアルでは中古戸建て住宅の査定に原価方式の計算方法を採用していて、「新築時の価格に対する現時点の価格について、築年数や使用している建材のグレード、リフォーム状況などから価格を算出する」方法としています。
これに準じて、計算方法を簡単な式にまとめると
査定額
=(再調達価格×残耐用年数÷実耐用年数−表見損失+付加価値)×補正率
と表せます。
ここで再調達価格は現在の経済価値で査定対象建物を新築した場合の費用の事です。
再調達価格=仮設費+資材費+人件費+機械費+経費+業者利益
のように積み立て計算するのが正式ですが。単に建物床面積×標準面積単価で簡略に出した後、基礎や柱、外装、内装、設備等の各部位事にグレード補正をする方法としても良いでしょう。
残耐用年数は実耐用年数から新築後の経過年数を引いた年数です。
実耐用年数は、以前に標準的な考え方となっていた所得税計算で減価償却を算出する際の法定耐用年数を見直しし、実情に即した年数を耐用年数に採用しましょうと言うことです。
つまり、新築した後リフォームで屋根を葺き替えた、内装を模様替えした、流し台を入れ替えした等の営繕がなされれば当然建物の耐用年数も延びます。又、建物自体の構造がしっかりしている、内外装や設備のグレードがそもそも高い建物は法定耐用年数を採用するにはそぐいません。
国税庁では木造建築物の法定耐用年数を22年としていますが、現代建築での木造新築住宅はフラット35仕様であれば35年ローンが組めるように、35年以上の耐用年数は当たり前と考えなければなりません。
昭和40年に新築されて50年経過していても立派に住まいとして利用できるものも沢山ありますし、100年近く経過した建物でも保存状態が良く魅力的な建物さえ存在するのですから、法定耐用年数を不動産査定に用いること自体がそもそもの間違いであると言えます。
屋根や外壁を貼り替えたから耐用年数が何年延びるとかは判断する者の主観が大きく作用しますので一概には言えません。このことを客観性を高め論理的に説明できるようにするとなると一冊の本が出来てしまいます。
表見損失とは本ページ独自の言い回しでマイナス評価のうち表に見える部分を示します。表には見えずに潜在的に潜んでいるマイナス部分は考慮しません。
雨漏りを直さないと住めない、設備を入れ替えないと使えない、シロアリ被害があって土台や柱を入れ替えなければならない、軟弱地盤で建物が傾いている、全体的に通常より劣化が激しい等が具体的に挙げられます。
付加価値としての対象とすべき具体例は、建築確認申請書類の存在、瑕疵担保責任保険の加入、インスペクション報告書の存在、シロアリ防除の保証書の存在、耐震診断適合証明書の存在、風光明媚が楽しめる特別な部屋の存在、短期償却となる浴室サウナやジェットバス、エコキュート等の給湯設備、太陽光発電設備の存在等でプラス評価できるものがある場合です。
だだし、床暖房や二重サッシ、全館空調は建物の償却期間と同じと考えた方が妥当な場合は再調達価格に算入して計算すべきでしょう。
補正率は外観、外構、内装、設備について傷み具合を購入者の視点で評点を加減して決定します。それぞれについて良好1.05、やや良好1.02、普通1.00、やや劣る0.95のいずれかを採用します。
具体的な計算例は省略しますが、既存住宅状況調査の本来の目的とは違いますが調査内容は、中古住宅の査定項目と共通したものあることを理解して下さい。
法定調査の限界とオプション調査の必要性
前段の建物の査定と既存住宅状況調査が共通する部分は表見損失の部分と言うことが出来ます。
購入者は後で自分にプラスになることが出てきた場合はクレームを発することはありません。発するのは潜在的な部分のマイナス要因が出てきたときだけです。
中古住宅の安全取引を目的とする調査ならば表見損失を見落とさず調査しなければなりません。しかし、目視できる部分なら精度の高い調査は可能でも、床下、天井裏、壁内部等は視認が困難か不可能な場合が多く、潜在的な損失部分の正確な調査は困難です。
医師は問診、視診、聴診、嗅診、打診、触診、レントゲンだけでなく、CT、血液検査、遺伝子解析と現代科学の粋を尽くして病根を特定して治療することが出来ますが、建物状況調査ではそのように近代化された調査は実施されていません。
しかも、建物は人間のように頭が痛いとかおなかが痛いとか言ってくれないのですから、ますます潜在的損失部分を発見するのは困難となります。
それでも、調査者は目視できる部分に現れた現象から目視できない不具合部分を予測することを試みます。予測の精度は調査者の経験と推察力に頼るしかありません。
国土交通省の調査要領は調査の限界と主観の入れ込みの防止を考慮した上での調査と報告内容となっています。買い主にとっては、もう一歩も二歩も踏み込んだ調査に基づいた報告書が欲しいの所ですが、調査の限界から無理も有り、予測だらけの報告書の提出にも疑義が生じます。
したがって、確実に目視できた部分の事実だけを報告するしかありません。
この調査事実だけから、査定価格計算を計算するとなると潜在的損失が考慮されないため売り主側に有利に働く公算が高くなります。
また、売り主として出せる調査費用はここまでであり、無理して自己の建物のアラ探しをする必要は法律的にも全くありません。
買い主が、もし国土交通省のマニュアルに基づいた調査だけで不安を感じるのであれば、売り主の了解を得て自己負担で二次調査をして推察を含めた所見の作成を依頼しなければならないことになります。
公益社団法人日本建築士会連合会の「既存住宅状況調査技術者講習テキスト」ではオプション調査として建物所有者の了承を得て法定調査と同時に行うことがあり得ることを想定しています。