建築資材の限界による欠陥住宅
新築した後から建物は劣化が進み、まもなく建具の開閉に支障が出たり、床鳴りがしたり、クロスや聚楽に隙間が出たり、コンクリートに細いひび割れが出たりと言う現象が現れてきます。
これらの多くは構造材や仕上げ材の乾燥に伴う現象の場合が多く、適正な施工がなされていても避けられない現象です。
ひび割れの出ないコンクリートは存在しないし、木材は5年以上の長期間に渡り乾燥と吸湿を繰り返しながら収縮して安定に向かい、その課程で木造住宅の構造に狂いを発生させます。
また、モルタル、漆喰、糊は乾燥時に収縮が激しいですし、一般に乾式工法と言われている窯業系サイディングや石膏ボードさえ微量ながら乾燥収縮するのです。外壁のコーキング資材も10年程度で劣化します。
こういったことまで、欠陥住宅や施工ミスと息巻いて施工業者に迫るのは、その後の関係を台無しにしてしまうことがありますので、穏便に話を持ちかけるのが賢明です。
作業能力の限界による欠陥住宅
出題範囲が習った教科書からだけの試験だったとしても、全てのテストで100点満点を取れる人間がいたとしたら大変な驚異です。
それを解っていながら、些細なミスにも「住宅は一生に一度あるかないかの高額な買い物だから」、「プロとして、なぜもっときちんと出来ないのか」と言って目くじらを立てる建築主の方がごく希にいます。
人間は当たり前に記憶違いや判断ミス、動作ミスを起こします。建築現場に、まじめで経験豊富な現場監督と職人がそろっていたとしても間違いは起こります。
住宅建築での作業は自動車の製造ラインで決められたポジションの作業を何百、何千と繰り返し行う場合とは違います。間取りや他工程との連係タイミング等の条件が違えば作業位置も手順も違ってきますし、そこに雨や風、炎天下や酷寒、狭小や不安定姿勢等での作業も加わると判断能力や作業能力が低下し過ちにつながっていきます。
このような過ちをなくすには、余裕の工期と職人の一日当たり作業量を減らし第三者の頻繁で事細かな検査が必要となってきます。
そうすると、工事費が高額になります。80%の施工精度を確保するのに延べ10人の職人が必要であるとすれば、90%の精度に高めるためには倍の20人が必要で95%にするには40人必要となるように職人数は指数的な上昇率となります。このように人間の判断や作業に完璧を求めるのは至難の業なのです。
したがってコストを押さえながら品質を損なわないようにするため、検査態勢を敷きます。
検査は重要度に応じて1ヶ所毎にする場合と10ヶ所の内1ヶ所は入念に検査してそれで問題なければ残りはざっと見るなどという方法で進められます。
後者は作業員に正しい施工方法が身についているかを抜き打ちしたヶ所で確認出来たら、残りのヶ所も同じように施工されているとの推論で検査を進めるわけです。検査は、一項目につき最低3ヶ所以上は行います。
それでも、施工ミスの全てを排除するのは不可能です。作業した本人が気づいていない場合もありますし、延べ300人もの作業員が入る現場を一人の監督が全て作業に目を配ることはどう考えても不可能です。
ですから、後で取り返しにならなくなる構造や、隠れてしまう部分は特に重点を置いて検査をする事になります。
また、フロアに誤って工具を落として傷を付けてしまった、サッシに材料搬入時に材料で擦り傷を付けてしまったとかもあります。養生をしたり作業時に注意を払っていても現場では起こりうるのです。
このような事情に建築主も理解を示し、補修によって特段見た目が損なわれな様に修復出来たり、建物機能や生活に支障がない場合は、多少の傷は職人が苦労した記念碑程度に捉えて波風を立てない方が引き渡し後のアフターメンテナンスの良好なお付き合いになると考えるべきです。
設計と施工管理の限界による欠陥住宅
建物基礎の杭位置と深さをボーリング調査によって決めたとしても、実際の施工現場では計画どおりに行くとは限りません。
なぜなら、地盤の支持層の深さやそこまでの地層の構成は平面位置で1m違えば様相は相当違うのが軟弱地盤地帯なのだからです。建物基礎範囲のどこを調査しても同一なる地盤はないと思って間違いありません。
例えば、建物の4隅と中心付近の計5カ所をボーリング調査して30本の杭を配置したとすると、ほとんどの杭は調査位置からずれたところに打設されるわけですので、ボーリング調査結果は参考としても実際は手探りで打設作業をしているのと同じ事になります。
従って、確実な杭基礎とするには、設計者と施工者が協力し合い杭支持力の確保を図っていかなければなりません。それでも、工期や費用等で施工の限界が立ちはだかることも現実にはあるのです。
また、プロとして知識・経験不足だったとか、業者や職人が意図的に手抜きをしようとする場合は論外ですが、建物は最終的に人と機械により組み立てられたり仕上げられたりしますので、その精度は職人能力や機械性能に左右されることもあります。
機械を操作するのは人間であり、人間は間違いを起こします。自己だけで間違いに気づくこともなかなかできません。間違いを是正せずどんどん先に進んでしまうと後で取り返しがつかなくなります。
設計に過ちが潜んでいる可能性もあります。従って、設計者と施工者はお互い対等の立場で協力し合いよりよい建物の完成を目指さなければなりません。
欠陥住宅の誕生には予算上の問題、自然相手の手探り、人間の限界等のような背景が見られるのがほとんどです。